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2009年 7月 30日

杉の品種と適材適所

ヤブクグリ、ウラセバル、ヒノデ、メアサ、アヤスギ、ホンスギ、モトエスギ・・・
 
馴染みのない言葉でしょうが、これらは日田地方でよく耳にする杉の品種の名前です。
杉(Cryptomeria japonica)は分類上、一属一種と言われますが、
九州の杉だけでも栽培品種で言うと100もの名前があるということは以外に知られていません。
 
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(宮島寛・著「九州のスギとヒノキ」より)
  
百を数える名前の中には、地域によって呼び名が変化することもあります。
そんな異名同種であったり、それとは逆の同名異種であったりと、分類するのも至難の業のようで。
未だ品種の分類が確定されているわけではありません。
それでも、通直であったり曲がっていたり、強度や含水率など、
品種によって同じ傾向があることは、まず間違いありません。
「氏より育ち」ではなく「育ちより氏」である、と言えると思います。
 
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(宮島寛・著「九州のスギとヒノキ」より)
  
さて、この品種による品質の差ですが、11年ほど前私は、
後の方向性に影響を与えたある貴重な体験をいたしました。
それはまだ私がこの世界に飛び込んで間もない頃のことでした。
当時私は、杉の赤身の強度は白身より高いのではないか、という仮説を立てていました。
そこで、福岡県森林林業技術センターに杉の桁材を百数十本持ち込み、
センターの研究者の方々の協力を得て、強度の検証を行いました。
 
一本一本重さを量り、木口(年輪部)を金槌で叩き、音の周波数を採取します。
これにより、木材の強度=ヤング係数の推定値が計測できるわけです。
残念ながら、強度において赤身が強いとは言えませんでした。
ところがこのとき、思わぬ収穫を得ることになりました。
それは、同じ九州の杉なのに、強度の差が、
ピンとキリでは3~4倍もあるという事実でした。これには衝撃を受けました。
品質の差があるということは分かっていたけれども、
数値にそれだけの開きがあるなんて、思ってもみませんでしたから。
 
そして同時に、面白いことに気づきました。
それは、先代・先々代から教わった、「この木は硬い、この木は柔らかい」、
といった「木の見立て」は正確である、ということでした。
さらに、この硬い木、柔らかい木の差が、
品種の違いと年輪幅に関係していることを感覚で掴むことができました。
 
それからというもの、私は
年輪を見ただけで品種を見分けられるようになりたい、と思うようになりました。
すると面白いものです。徐々にではありますが、
剛性が高く硬くて強い品種(a)、
多少柔らかいがしなって折れにくい曲げ強度の高い品種(b)、
柔らかくてサクサクしているが、曲がったりねじれたりしない品種(c)、
などの特性がわかるようになってきました。
ちなみにa)は柱や桁・梁といった構造材に、b)は桁・梁などの横架材に、
c)は板材や下地材、節が少ないものは建具に、などといった用途が考えられます。
同じ山に多くの品種の杉が植えられていたりもしますが、
例えば家を一軒建てる場合、最小の面積を伐採するだけで、a~cといった
様々な用途の木材が採れると考えれば、合理的と言えるのかもしれません。
 
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ここで皆さんに一つ質問をしたいと思います。
北部九州では、ひとつながりの山に杉といっても多様な品種が植えられています。
この事実は、どのように捉えられているとお思いでしょうか?
 
今のところ、この杉の品種によるバラつきは、大きな欠点であると見なされています。
大量生産、安定供給、品質均等を図るには素材の均一化が効率的ですから、
弱い物、品質の劣る物に基準を合わせることになってしまいます。
その結果、良いモノの価値が付加されなくなる、ということが起こるのです。
 
外材8割、国産材2割、という木材の自給率的観点からすれば、
林業コストを削減し、木材加工を合理化させる、という論理になります。
リアリティを持って考えるならば、これは正論です。
国際競争力を考える時、国産木材の利用を促進するためには
確かに避けて通れない考え方であると思います。
しかしながら、手塩にかけて育てられた良い木材は、
もっとそれなりに評価されてもよいではないか、と感じます。
でも残念ながら、それらの行き先は、年々狭まっているような気がしてなりません。
 
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本来、良い物というのはどこに使われるのが望ましいと思われますか?
私は、樹齢以上に「材齢」を重ねられる建築物に使用するのが良いのではないかと考えています。
そして、できるならばぜひとも、伝統的な木組みの建築物に使用してほしい、と願います。
 
伝統的な建築物の魅力は、なんと言ってもその美しさにありますが、
美を構成する要素に、木のクセを活かした木組みを欠くことはできません。 
伝統的な建物づくりは、木のバラつき・欠点はすべてクセであり特性であると見なします。
これこそ、「適材適所」と言えるのではないでしょうか。
  
8月9日(日)の九州民家塾では、山を散策し氣をチャージしながら(笑)、
そんな先人たちの考え方や工夫などを、私が気づいた範囲内でお伝えできればいいな、とも思っています。
幸い、日田市上津江には多品種の杉が植えられた試験林(50年生くらい)があります。
また近くには、吉野から苗木を移入した美しい杉の人工林(100年生超)もあります。
 
なにかとお忙しい時期にて恐縮ですが、ご興味のある方はぜひご参加くださいませ。^^

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