2010年 6月 29日

世界遺産に見出した杉の役割


 
束石の上に杉の柱が並び、外壁のそのほとんどを杉皮が覆う。
庇(ひさし)屋根には、杉を薄く裂いたコケラ板がモザイク状に葺かれ、
三角の妻壁には、杉板が張られている。
先週末に出合った、この杉だらけの民家、さて、どこだと思いますか?
 

 
答えは、白川郷(岐阜県大野郡白川村)と共に合掌造り民家群として
世界遺産に登録されている五箇山(富山県南砺市)の「菅沼集落」。 
 
それにしても、この杉だらけの民家を見つけたときは胸が騒ぎました。
北陸地方は、広葉樹に重きを置く文化とばかり思っていたからです。
これまで、福井県から九州に移築されてきた民家を数棟見る機会がありましたが、
その多くは、クリやケヤキといった広葉樹が柱や梁に使われていました。
その土地の気候風土に適した素材と形と技術の結晶が民家である、とすると
五箇山のような豪雪地帯には、冬季の雪の加重に耐えるよう、
硬くて、しならない広葉樹を構造材に使ったほうが理に適っています。
事実、この日見学した、現存する合掌造り民家では最大規模の「岩瀬家住宅
(国指定重要文化財)の柱や梁の構造材は、総ケヤキ造り↓でした。
 

 
ところがこの岩瀬家住宅も、外壁に目を向けると、そこにはやはり杉の活躍がありました。
外壁だけでなく、庇(ひさし)にも屋根材として杉板が使われているのです。(↓)
 

 
相倉(あいのくら)地区の民俗館にある資料で、
五箇山の木材に関してこのような記述をみつけました。
 (抜粋はじめ)
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 古くから森林資源が豊かな五箇山は、文禄三年(1594)豊臣秀吉が伏見城を
築くのに五箇山の木材が使用されたことが「加越能古文書」に記されています。
 また江戸時代、加賀藩は木材の利用が拡がるのにつれ、用材の確保と調達の
ため「御林」といわれる藩有林をつくり「七木(しちぼく)の制」を設け、許可なく木を
伐ることを禁じ、村人に守らせて管理していました。
 藩の御用木「七木」は種類が決められていて、その内、五箇山では檜(ひのき)、
槻(けやき)、杉、栗の四種が御用木として明らかにされています。
 
*************************************************************
(抜粋終わり)
 
ケヤキ、クリという広葉樹と共に、杉、ヒノキといった針葉樹も重用されていたことがわかります。
その価値観は、風景にも如実に現れていて、先人たちの知恵に心動かされました。
 

(菅沼集落と共に世界遺産に登録されている相倉(あいのくら)集落)
 
合掌造りの民家群を取り囲むように、杉林が覆っているのがおわかりでしょうか?
これは、雪持林(ゆきもちりん)と呼ばれ、雪崩を止める役割を担っているそうです。
つまり、この地域において杉は、樹木として集落を覆うことで風雪から守り、
また、木材として家の外壁を覆うことで風雨から守るという役割を果たしているのです。
じつに奥深い、木の文化を垣間見ることが出来ました。
 
すっかり杉の文化ネタで暴走してしまいましたが、
今回の五箇山行きは、「(社)日本茅葺き文化協会」の設立総会、
および設立記念フォーラムに参加するため。
師である安藤邦廣教授(筑波大)が代表理事で、微力ながら私も理事として名を連ねております。
 

 
この日は、老若男女を問わず、170名余りの人が集まり大盛況。
とはいえ、今年2月に設立したばかりのこの会の会員は現在70名程。
茅葺きの文化と技術の継承と振興を図る、志の団体ですが、
国などの予算もなく、当面は啓発と会員の拡大がテーマ。
会員数200名をまずは目標としています。
趣旨にご賛同いただける方は、ぜひご協力くださいませ。
年会費5千円で、年4回会報が送られてきます。
(全国の茅葺き職人たちとも繋がっております。)
 
入会のご案内はこちら↓
http://www.kayabun.or.jp/nyuukai.html

コメント(4)

コメント(4) “世界遺産に見出した杉の役割”

  1. ソワカon 2010年6月30日 at 20:19:50

     先日はお疲れ様でした。

     やはり茅葺きのシンポといえども目の付け所が一般の方達とは違いますね(笑)

     わたしといえば懇親会と宿での二次会にて二日目はややフラフラでして。

     佐賀以来の参加になりましたが、様々な角度から茅葺民家に関係する多くの方に
     会えたことは非常に有意義な会となりました。

     週明けからの屋根仕事にも自然と手に力が入っています。

                                                  ソワカ

  2. adminon 2010年7月01日 at 9:36:16

    ソワカさんこそ、
    どうもお疲れ様でした。

    一見、同じように見える茅葺き屋根も、
    地域特有の、じつに多彩な素材の数々が
    使われていて、本当に感動しました。

    軒付けの麻ガラ、コガヤ(カリヤス)葺き、
    それらを留める押しボコはマンサク。
    現物を見ながらお話が聞けるって嬉しいですね。

    ソワカさんの、今後ますますのご活躍が楽しみです。

  3. Dream Writeron 2010年7月02日 at 23:04:54

    白川郷は、二十代の頃、旅行で行きまして、合掌造りのおうちに泊まったので
    興味深く拝見いたしました。

    ・・・やはり、専門家にご説明いただくと違いますね。

    私たちの感想は
    「外から見ると合掌造りだけど、中は普通のおうちなんだね」

    まるで小学生のようです(汗)

    杉岡さんの文章を読んでいたら、また白川郷に行きたくなりました。

  4. adminon 2010年7月06日 at 8:45:09

    Dream Writer さま

    たしかに、多感な20代の頃に訪ねたい所。

    >「外から見ると合掌造りだけど、中は普通のおうちなんだね」

    じつに興味深いですね~
    あの室内は、普通のおうち、という感覚なのですね。
    泊まった季節はいつだったのでしょう?
    私のモノサシとは異なるご感想を
    いろいろとお聞きしたくなりました。

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